3.激甚化・頻発化する災害に対する取組
前項のとおり、緊急消防援助隊は、地震災害や土砂・風水害をはじめ、噴火災害、雪崩災害、林野火災など、あらゆる大規模災害に対応してきた。これらの災害から得られた課題や経験を踏まえ、大規模災害時に緊急消防援助隊がより一層迅速かつ的確に対応できるよう充実強化を図っていくことが求められる。
近年は、災害が激甚化・頻発化するとともに、南海トラフ地震などの大規模地震の発生も切迫しており、それらの災害に的確に対応するため、「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」に基づき、部隊の増強を図るとともに、緊急消防援助隊設備整備費補助金の活用や、消防組織法第50条による無償使用制度を活用した車両・資機材の配備により装備等の充実を図ってきた。また、自衛隊等の関係機関との連携強化を図り、捜索救助活動等を効果的に行えるよう、合同訓練を実施するなどの取組を行ってきた。
(1)緊急消防援助隊の部隊の創設
ア 統合機動部隊の創設と運用強化
東日本大震災において、消防庁長官の指示により緊急消防援助隊の各都道府県大隊が出動することとなったが、首都圏などの都道府県大隊においては、地域内の交通・通信状況が滞り、参集、準備、集結、出動という一連の行為に時間を要する例が散見された。都道府県大隊全てがそろうことを待たずに、長官の出動の求め又は指示後、おおむね1時間以内の出動を目標に先遣隊として出動する「統合機動部隊」を平成26年に創設し、特に緊急度の高い人命救助等の活動を展開するとともに、後続部隊の活動に資する情報収集・提供を行うことで、緊急消防援助隊の初動展開能力を充実させる体制を整備した。その後、都道府県知事による緊急消防援助隊の応援等要請の迅速化等を目的に「緊急消防援助隊の応援等の要請等に関する要綱」を策定するなど迅速出動に係る運用の継続的な見直しを行い、初動対応能力の向上を図ってきた。
イ 土砂・風水害機動支援部隊の創設
局地的豪雨や台風による大雨等により、大規模な浸水被害、中小河川の氾濫、土砂災害、流木被害など多様な被害が生じている。これらの大規模な土砂・風水害時における救助体制を強化するため、重機及び重機搬送車や小型水陸両用車を積載した大規模津波風水害対策車、中型水陸両用車、大型水陸両用車を配備するとともに、それらを有した「土砂・風水害機動支援部隊」を平成31年に創設し、被災地に機動的に投入する体制を整備した。
特集3-1図 土砂・風水害機動支援部隊の基本的な編成
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ウ NBC災害即応部隊の創設
日本国内での2019年のラグビーワールドカップ及び2021年のオリンピック・パラリンピックの開催に伴い、NBCテロ災害に万全を期す必要があったことから、「NBC災害即応部隊」を平成31年に創設するとともに、化学剤検知器、化学剤同定装置、生物剤検知器、大型除染システム等を配備し、消防庁長官が定めるNBC運用計画に基づき迅速に出動する体制を整備した。
特集3-2図 NBC災害即応部隊の基本的な編成
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エ 航空部隊の充実
消防機関及び都道府県が保有する消防防災ヘリコプターは、救急搬送や救助、林野火災における空中消火等の活動で大きな成果を上げている。特に、台風や豪雨に伴う水害や土砂災害の発生により、陸上交通路が途絶するような事態では、ヘリコプターの高速性・機動性を活用した消防活動は、重要な役割を果たしている。
消防庁としても大規模災害及び複雑多様化する各種災害並びに救急業務の高度化に対応するため消防組織法第50条の規定による無償使用制度を活用し、広域的な情報収集など国の任務を担う消防庁ヘリコプターを配備するなど、消防防災ヘリコプターの全国的配備を推進し、令和6年11月1日現在、消防庁保有機が5機、消防機関保有機が30機、道県保有機が42機の計77機が配備され、全機が緊急消防援助隊として登録されている。
全国的な機体の配備に加え、緊急消防援助隊が効果的に活動できる体制整備として、より迅速に出動し、被災地での対応を行うため、航空小隊を都道府県大隊から切り離し、出動した航空小隊により部隊を構成する「航空部隊」を再編するとともに、航空指揮本部において航空隊の指揮を行っている者を補佐する「航空指揮支援隊」及び航空機の活動拠点における緊急消防援助隊の活動に必要な輸送・補給活動を行う「航空後方支援小隊」を創設し、航空指揮本部の支援体制も整備してきた。
(2)緊急消防援助隊の車両・装備の充実
応援出動する緊急消防援助隊が実効性のある活動を展開するためには、出動する部隊が十分な能力水準を持ち合わせることが必要となる。このため、消防庁として、緊急消防援助隊設備整備費補助金や緊急防災・減災事業債などの財政措置、無償使用制度により、緊急消防援助隊で用いる車両・資機材の整備に努めてきた。これにより、救助隊や消火隊、救急隊が用いる救助工作車や消防自動車、救急自動車等の車両・資機材を整備するほか、後方支援に要する燃料補給車や拠点機能形成車、特殊災害に要する大型除染システム搭載車などの車両・資機材が整備され、令和6年4月1日時点で6,661隊(台)の登録がなされている。
近年においても、実災害を踏まえた整備を行ってきており、令和3年熱海市土石流災害の教訓を踏まえ、狭隘な場所や、道路が損壊している場所でも機動性、走破性が高く、資機材(救助・消火)搭載能力の向上により多様な消防活動を行える小型救助車の整備を行ったほか、上空からの情報収集活動を実施することにより、孤立地域住民の安否確認、要救助者の確認、さらには救助車両等の進出の可否を迅速に判断し、的確な消防活動を遂行するために地図画像作成機能付ハイスペックドローンの配備を行った。そのほか、長期化する緊急消防援助隊の活動を支えるための後方支援体制の強化を図るため、高機能エアーテントの配備を行った。これらに加え、大規模災害発生時、被災地の前線での部隊活動を支える拠点機能を形成するため、長期の消防応援活動を支援する資機材を積載した拠点機能形成車や全国のあらゆる場所で映像伝送が可能なヘリサットを装備した消防庁ヘリコプターを配備するなど、緊急消防援助隊の車両・資機材の充実強化を図っている。
特集3-3図 近年の緊急消防援助隊の配備車両等
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(3)訓練を通じた緊急消防援助隊の充実強化
これらの車両・資機材の充実を含む体制整備等の運用面への定着、緊急消防援助隊の技術及び連携活動能力の向上、関係機関との連携強化や被災都道府県等の受援体制の強化などを一層推し進めるため、緊急消防援助隊基本計画に基づき、平成8年度から全国6ブロックにおいて、地域ブロック合同訓練を毎年実施している。また、広域的な部隊進出の検証、国家的な非常災害に対する緊急消防援助隊の出動計画等を定めるアクションプランの検証等を目的に、全都道府県が参加する最大規模の訓練として、全国合同訓練を概ね5年ごとに実施している。令和4年11月には、南海トラフ地震を想定した、緊急消防援助隊発足から6回目となる全国合同訓練を静岡県において実施し、緊急消防援助隊の消火・救助技術や指揮・連携活動能力等の向上を図っている。
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トンネル内車両孤立救出訓練の様子(地域ブロック合同訓練)
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毒劇物災害対応訓練の様子(地域ブロック合同訓練)
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救助活動の様子(全国合同訓練)
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自衛隊輸送機による部隊進出訓練の様子(全国合同訓練)