令和6年版 消防白書

2.消防団の充実強化の取組

(1)消防団の充実に向けた大臣書簡

地域防災力の一層の充実強化のため、制定から10年を迎えた消防団等充実強化法及び能登半島地震を踏まえ、令和6年2月6日に、各都道府県知事及び市区町村長に対し、総務大臣から書簡を発出した。その中で、消防団の更なる充実に向けた一層の取組をお願いするとともに、併せて「消防団を中核とした地域防災力の充実強化事例集」(以下、本特集において「事例集」という。)を送り、消防団員がやりがいを持って活動できる環境づくりなど、各地域の先進的・特色のある取組を紹介した。

(2)処遇改善の推進

ア 報酬等の処遇改善

消防団員の報酬等について、消防庁において「非常勤消防団員の報酬等の基準」(以下、本特集において「基準」という。)を策定している。基準では、消防団員への報酬は年額報酬と出動報酬の2種類とし、年額報酬は「団員」階級の者については36,500円、出動報酬は災害時1日当たり8,000円を標準額とすることや、報酬等は消防団員個人に対し、活動記録等に基づいて市町村から直接支給することなどを定めた。
令和4年度から地方交付税措置において、各市町村が負担する消防団員の報酬等に係る財政需要を的確に反映するよう、算定方法の見直しを行い、処遇改善を推進してきた。
その結果、「団員」階級の年額報酬において基準を満たす市町村が令和4年4月1日は69.1%であったところ、令和6年4月1日には90.5%まで増加し、着実に改善が図られてきた(特集5-1表)。

特集5-1表 都道府県別の消防団員の処遇改善に係る対応状況

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加えて、令和6年度からは「班長」階級以上の年額報酬に係る経費について、実績に応じた特別交付税措置を新たに講じ、処遇改善に向けて更なる取組を進めている。
一方で、未だ基準を満たしていない市町村もあることから、今後も、様々な機会を捉えて、年額報酬額や災害に関する出動報酬額、消防団員個人への報酬等の直接支給について、基準に沿った対応が行われるよう、各地方公共団体に対し働き掛けを行っていくこととしている。

イ 退職報償金の勤務年数「35年以上」区分の導入

退職報償金は、市町村が、消防団員が退職した際にその労苦に報いるため、慰労金の性格として団員の階級及び勤務年数に応じ、条例により支給している。
消防団員数が年々減少している中、地域防災力を確保するためには、入団促進のみならず、既に在籍している消防団員にできる限り長く在籍していただくことが重要である。特に、高齢化が進む地方においては、シニア層の消防団員の個々の能力に応じた活躍促進が不可欠となっている。
このため、現在勤務年数「30年」区分で頭打ちとなっている退職報償金制度に、新たに「35年以上」区分を導入することとし、消防団員の処遇改善を図っている。

(3)消防団に対する理解の促進

地域の安全・安心に欠くことのできない消防団活動について広く認識・評価されることが、消防団員の処遇改善や、今後の消防団員確保につながるものと考えられることから、消防庁では以下のような消防団への入団促進策や消防団活動の発信・表彰等の取組を実施している。

ア 消防団入団促進広報の全国展開

消防団への入団促進広報を一層充実させるため、年間を通じて広報に取り組んでいる。特に、入団者数の減少が著しい若者に向けた広報を推進するため、女性や若者からの知名度が高い著名人を「消防団入団促進サポーター」に任命し、制作した消防団員募集ポスターやPR動画などを全国の都道府県、市町村、消防本部等に配布・周知するほか、若者が触れる機会の多いSNSを活用した情報発信を行っている。
また、全国のショッピングモールにおいて、若者や家族連れをターゲットにした入団促進イベントを実施している。

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入団促進PR動画

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駅構内デジタルサイネージ

イ 消防団活動のPR

消防庁ホームページにおいて、消防団の特設コーナーを設置し、消防庁における最新施策や最新情報のほか、各消防団における取組事例等を掲載し、消防団活動や入団促進のPRに努めている。(参照URL:https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/

ウ 消防団等充実強化アドバイザーの派遣

平成19年4月から、消防団の充実強化等に関する豊富な知識や経験を有する「消防団等充実強化アドバイザー」を地方公共団体等に派遣し、消防団への入団促進をはじめ、消防団の充実強化を図るための具体的な助言や情報提供を行っている。
令和6年4月1日現在、30人のアドバイザー(うち女性10人)が全国で活躍している。

エ 総務大臣による表彰

消防団員の確保等に積極的に取り組む消防団に対し、平成25年度より、総務大臣から感謝状を贈呈していたが、消防団等の功績をより一層称えるため、令和5年度に総務大臣が表彰を行う消防団地域貢献表彰を創設した。令和5年度には、平常時の活動により地域防災力の向上や消防団員の確保等に特に積極的に取り組む38団体が受賞した。

オ 消防庁長官による表彰

自然災害や大規模事故等の現場において、顕著な活動実績が認められる消防団等に対し、防災功労者消防庁長官表彰を行っており、令和5年度には4団体が受賞した。さらに、令和6年能登半島地震に係る防災功労者消防庁長官表彰を行い、能登半島地震において、顕著な活動実績が認められた石川県内の12団体が受賞した。
また、平常時の活動により地域防災力の向上に寄与し、全国の模範となる消防団や、消防団員確保について特に力を入れている消防団、更には、消防団員である従業員を雇用しているなど、消防団活動に特に深い理解や協力を示している事業所等に対し、消防団等地域活動表彰を行っており、令和5年度には、消防団表彰を53団体、事業所表彰を19事業所が受賞した。

(4)幅広い住民の入団促進

ア 社会環境の変化等に対応した制度等の導入

多様な住民が消防団に参画するためには、基本団員の充実を前提としながらも各消防団員の得意分野を活かせる機能別消防団員や機能別分団の創設が有効である。また、定年制度の見直しや、居住者だけでなく通勤・通学者も加入対象とするなど、幅広い層の人材が入団できる環境の整備を図ることが必要である。
令和6年2月6日には、消防庁長官から各都道府県知事等に通知(以下、本特集において「令和5年度消防庁長官通知」という。)を発出し、機能別消防団員・機能別分団の導入について積極的に検討するよう働き掛けている。
また、高齢化が進む地方におけるシニア層の消防団員の活躍を推進するため、定年制の撤廃や消防吏員OBの活用を含む大規模災害時に特化した機能別団員制度の導入促進等と併せて、地域の実情に応じた対応を検討するよう働き掛けている。

イ 被用者の入団促進と企業等との連携

被用者である消防団員の割合の増加に伴い、消防団員を雇用する事業所の消防団活動への理解と協力を得ることが不可欠となっている。そのため、平成18年度から、「消防団協力事業所表示制度」の普及及び地方公共団体による事業所への支援策の導入促進を図っている(特集5-3図)。令和6年4月1日現在、当該制度を導入している市町村の数は1,373、市町村消防団協力事業所の数は1万7,870となっている。令和5年度消防庁長官通知では、未導入の市町村においては、本制度の活用により、企業等の消防団活動への理解を促し、被用者の消防団への入団促進につなげるよう周知している。

特集5-3図 消防団協力事業所表示制度

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市町村消防団協力事業所のうち、特に顕著な実績が認められる事業所を「総務省消防庁消防団協力事業所」として認定しており、令和6年4月1日現在、認定事業所数は764となっている。なお、消防庁認定に当たっては、複数の事業所を持つ企業等は、企業等全体での認定も可能である。
また、消防団活動に特に深い理解を示し、消防団に協力している事業所等に対し、消防庁長官による表彰も行っている。
さらに、就業規則や社内文書等で、勤務時間中の消防団活動を特別休暇とするなどの業務上の配慮を行っている企業の取組や、企業との連携による入団促進の取組について、事例集に掲載し周知するとともに、「消防団の更なる充実強化に向けた企業等との連携強化について」(令和6年10月15日付け通知)を発出し、企業等へ消防団活動の周知・理解促進等を行い、地方公共団体と企業等の更なる連携強化について働き掛けている。

ウ 女性の入団促進

消防団活動が多様化する中で、女性消防団員には広範囲にわたる活躍が期待されることから、今後更に女性の入団促進に取り組む必要がある。
令和5年度消防庁長官通知において、女性消防団員数の増加に向けた取組の継続を働き掛けている。
また、女性消防団員の活動をより一層、活性化させることを目的として、「全国女性消防団員活性化大会」を毎年度開催している。
さらに、女性の入団促進や、女性の目線を活かした消防団運営などの取組について助言できる知識や経験豊かな「消防団等充実強化アドバイザー」(詳細は(3)ウを参照)を全国に派遣している。

エ 学生の入団促進

学生は、現在又は将来の消防団活動の担い手として期待されることから、積極的な入団促進に取り組む必要がある。
消防団に所属する大学生、大学院生、専門学校生等に対する就職活動支援の一環として、平成26年11月から「学生消防団活動認証制度」の普及を図っている。この制度は、真摯かつ継続的に消防団活動に取り組み、顕著な実績を収め、地域社会に多大な貢献をした学生消防団員に対し、市町村がその実績を認証するものである。
令和6年4月1日現在、当該制度を導入している市町村の数は395となっている。令和5年度消防庁長官通知においても、大学等を訪問し、学生消防団活動認証制度の活用を働き掛けることなどにより大学生等の消防団への積極的な入団を促進するように各市町村に対して呼び掛けており、今後も導入に向けた働き掛けを行っていく。

オ 将来の担い手等の育成

自らの安全を守る能力を幼い頃から継続的に育成していく防災教育の取組に地域防災力の中核を担う消防団員等が積極的に携わることは、消防団の活動に対する理解、ひいては将来の地域防災力の担い手を育成するためにも有効である。
このため、消防庁では、文部科学省と連携し、「児童生徒等に対する防災教育の実施について」(令和3年12月1日付け通知)を発出し、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校において消防団員等が参画し、体験的・実践的な防災教育の推進に取り組むよう要請した。
また、在住外国人・訪日外国人の増加に鑑みれば、外国人に対する防災教育や訓練、円滑な情報発信や避難誘導等が重要となってきていることから、消防団員等が参画する体験的・実践的な防災教育の推進についても要請している。

カ 新たな社会環境に対応する団運営

災害の激甚化・頻発化等を踏まえ、消防団に求められる役割が多様化していることや、共働き世帯が年々増加していること、全消防団員に占める被用者の割合が増加していることなど、消防団を取り巻く社会環境が変化する中で、消防団の運営に当たり、消防団内部での幅広い意見交換や、市町村・地域住民との連携がより重要となっている。消防庁では、社会環境の変化に対応した消防団運営の普及・促進に向け、令和4年度から「消防団の力向上モデル事業」を実施している。「消防団DXの推進」「免許取得環境の整備」「災害現場で役立つ訓練の普及」「企業・大学等と連携した消防団加入促進」「子供連れでも活動できる消防団の環境づくり」といった様々な分野における地方公共団体の取組をモデル事業として支援しており、令和6年度は97件を採択している。なお、本事業を活用して実施された各地方公共団体の取組は、横展開を図るため、消防庁ホームページにおいて紹介を行っている。引き続き、優良事例を横展開するとともに、今後は女性が活動しやすい環境づくりに向けた取組を重点的に支援していく。

(5)消防団の働き方改革

令和6年度は、女性や若年層をはじめとする幅広い住民の入団促進に向けた取組の参考となるよう、消防団員の確保や負担軽減など、働き方改革につながるノウハウ等が記載された「消防団員の確保に向けたマニュアル」を作成している。
様々な業種・世代との交流や地域への貢献、防災に関する知識・スキルが習得できるといった消防団の魅力を明確化し、機能別消防団員制度等の活用や、企業等との連携を通じた新規消防団員確保に向けた働き掛け、女性・若年層が活動しやすい環境づくり等について紹介を行っている。また、優良事例の横展開を図ることで、消防団の更なる充実に向けた取組を進めている。

(6)平時の消防団活動のあり方

ア 地域の実態に即した災害現場で役立つ訓練

近年頻発する豪雨災害などにおいては、消防団員が住民の避難誘導・支援や、逃げ遅れた住民の救命ボートによる救助を実施するなど、消防団が果たす役割は多様化している。こうした活動を安全に実施するためにも、風水害や地震、豪雪等、火災以外の災害に対応する訓練の重要性がますます高まっている。
消防庁では、救助用資機材等の整備に対する国庫補助や、救助用資機材等を搭載した多機能消防車の無償貸付け事業(詳細は(7)を参照)を行い、消防団の訓練等を支援している。
一方で、様々な訓練を実施することが消防団員にとって過大な負担となるおそれがあることから、消防団員に過重な負担がかからないよう真に必要な訓練を効率的なスケジュールで実施するなど、地域の実情に応じて創意工夫を図ることが必要である。

イ 操法訓練・操法大会

消火活動の技術力の高さを競い、ひいては消防団全体の技術の向上を図るため、全国((ア)と(イ)を隔年で開催)、都道府県、市町村など、それぞれの段階で操法大会が運営されている。全国大会については、パフォーマンス的、セレモニー的な動作を審査対象としないなど、実施要領や審査要領において訓練の負担軽減などのための工夫がなされている。
(ア)全国消防操法大会の開催
消防団員の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、「全国消防操法大会」を開催している。令和6年度は10月12日に、宮城県利府町において第30回大会を開催した。
(イ)全国女性消防操法大会の開催
女性消防団員等の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、「全国女性消防操法大会」を開催しており、令和5年度は10月21日に、東京都江東区において第25回大会を開催した。

(7)装備等の充実

ア 消防団の装備の充実強化

消防団等充実強化法の成立を契機として、消防庁では、消防団の装備等の充実強化に向け、平成26年の「消防団の装備の基準」(昭和63年消防庁告示)の改正のほか、以下の取組を行っている。
(ア)消防団の救助用資機材等の整備に対する国庫補助
「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)に引き続き、令和2年12月11日に閣議決定された「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下、本特集において「5か年加速化対策」という。)として、消防団の災害対応能力の向上を図るため、消防団設備整備費補助金を創設し、令和6年度から新たに、補助対象資機材に可搬消防ポンプを追加している。本補助金の積極的な活用を通じ、消防団の装備の充実及び災害対応能力の向上を図っている。

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可搬消防ポンプ

(イ)救助用資機材等を搭載した多機能消防車両の無償貸付
同じく5か年加速化対策として、市町村に対し、救助用資機材等を搭載した多機能消防車両を無償で貸し付け、訓練等を支援している。
(ウ)消防団へのドローン講習の実施
近年、災害が激甚化・頻発化している中、消防団の災害対応能力の向上、特に早期の情報収集能力の向上が求められており、ドローンの活用が急務となっている。そこで、令和5年度から「消防団災害対応高度化推進事業」として、消防学校に講師を派遣し、消防団員に対するドローンの操縦講習及びドローンから伝達された映像情報を基にした災害対応講習を実施し、消防団の災害対応能力の高度化を図る取組を行っている(詳細は特集6を参照)。ドローン講習を受講できることは、特に若年層における消防団への入団促進の効果も期待できることから、今後、全国において積極的に展開していく予定である。

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ドローンを用いた災害対応講習の様子

(エ)消防団拠点施設及び地域防災拠点施設の整備
各市町村が消防団拠点施設や地域防災拠点施設において標準的に備えることを要する施設・機能(研修室、資機材の収納スペース、男女別の更衣室・トイレ等)について、緊急防災・減災事業債をはじめとする財政措置の活用により整備を促進している。

イ 準中型自動車免許の取得に対する支援

道路交通法の改正により、平成29年3月12日から、準中型自動車免許が新設されるとともに、同日以後に取得した普通自動車免許で運転できる普通自動車の範囲は車両総重量3.5トン未満等とされた。これに伴い、車両総重量3.5トン以上の消防自動車を所有している消防団において、当該自動車を運転する消防団員の確保が課題となる。
そこで、消防庁では、平成30年1月25日、各地方公共団体に対し、消防団員の準中型自動車免許の取得に係る公費助成制度の創設及び改正道路交通法施行後の普通自動車免許で運転できる消防自動車の活用(消防車両の小型化)を依頼した。当該公費助成を行った市町村に対しては、平成30年度から特別交付税措置を講じている。
また、「消防団の力向上モデル事業」(詳細は(4)カを参照)により、地方公共団体が実施する準中型免許等の取得環境を整備する取組を支援している。
これらを踏まえ、消防庁では、「消防団員の準中型免許の取得促進等について」(令和6年9月26日付け通知)を発出し、準中型免許の取得促進に向けた環境整備により一層取り組むよう要請した。

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