平成21年版 消防白書

4 国民保護体制の充実

(1)地方公共団体における体制整備の推進

都道府県知事及び市町村長は、国民保護計画で定めるところにより、それぞれの区域に係る国民保護措置を的確かつ迅速に実施するために必要な組織を整備しなければならないとされているが、今日の地方公共団体には、国民保護関連事案に対する体制の整備はもとより、相次ぐ地震等の自然災害やインフラ関連の事故、新たな感染症など、住民の安心・安全を脅かす様々な危機管理事案に対しても、的確かつ迅速な対応が強く求められている。
このため消防庁では、平成18年度より「地方公共団体の危機管理に関する懇談会」(消防庁ホームページ参照URL:http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/fieldList2_1_4.html)を開催し、危機管理について知識・経験を有する有識者からの意見・助言をいただいている。また、地方公共団体における危機管理体制をより一層充実強化するために、平成18年度から「地方公共団体における総合的な危機管理体制の整備に関する検討会」を開催し、都道府県及び市町村の危機管理組織のあり方、平素から取り組むべき事項等について検討した(P.208参照)。
このほか、地方財政措置として、平成21年度も引き続き、標準団体ベースで、都道府県で5人分、市町村で3人分の国民保護対策関係職員の人件費を交付税算定上、基準財政需要額に計上するなど、地方公共団体の体制強化の支援にあたっているところである。

(2)全国瞬時警報システム(J-ALERT)

消防庁では、弾道ミサイル攻撃に関する情報や緊急地震速報、津波警報、気象警報などの緊急情報を、人工衛星を通じて直接、市町村の同報系防災行政無線等を自動起動させることにより、人手を介さず瞬時に音声放送やサイレンにより住民に伝達する「全国瞬時警報システム(J-ALERT)」(以下「J-ALERT」という。)の整備を推進している。
平成21年10月1日現在、J-ALERTを運用しているのは46都道府県及び332市町村にとどまっている(情報の受信のみの団体を含む。)。また、平成21年4月の北朝鮮ミサイル発射事案(P.209参照)の際には、あらかじめ想定していた事案と異なっていたため、国民への情報伝達手段としてJ-ALERTを使わないこととされた。
そこで、平成21年度補正予算(第1号)により、J-ALERTを全国一斉整備するとともに、そのシステムを改修することとした。整備及び改修の具体的内容は次のとおりである(第3-2図)。
〔1〕 防災情報通信設備事業交付金により、全国の地方公共団体に受信機等を整備するとともに、同報系防災行政無線等と接続することで、緊急情報を音声放送で瞬時に伝達する体制を整備する。
〔2〕 J-ALERT管理システムを構築し、地上回線を通じて全国の受信機の稼働状況を適切に管理するほか、ソフトウェアの更新、状況に応じた内容の音声放送をするための音声ファイルの書換え等を行えるようにする。

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(3)安否情報システム

武力攻撃等により住民が避難した場合などにおいて、家族等の安否が確認できるようにすることが重要である。そのため、総務大臣及び地方公共団体の長は、武力攻撃事態等において、避難住民及び死亡又は負傷した住民の安否に関する情報を収集・整理し、国民からの照会に対し、速やかに回答することとされている。
消防庁では、地方公共団体の職員等が避難所や病院などで収集した安否情報*6をパソコンを使って効率的に入力でき、さらに全国データとして検索可能な形にできる「安否情報システム」の開発を行い、平成20年4月から運用を開始した(第3-3図)。平成21年度は、情報入力や検索をより効率的に行えるようにするため、住民基本台帳カードとの連携やあいまい検索の機能を付加することとしている。

*6 安否情報:氏名、出生の年月日、男女の別、住所、国籍、個人を識別するための情報等をいう。

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今後とも地方公共団体が安否情報を入力するための運用体制の強化を図ることが重要であり、消防庁では、〔1〕地方公共団体間の応援体制の整備・拡充による安否情報の収集のための人員確保、〔2〕警察・医療機関等の関係機関との協力体制の構築などの支援に取り組んでいる。

(4)特殊標章の取扱い

指定行政機関の長、地方公共団体の長等は、武力攻撃事態等においては、指定行政機関や地方公共団体の職員で国民保護措置に係る職務を行う者又は国民保護措置の実施に必要な援助について協力をする者に対し、ジュネーヴ諸条約の追加議定書*7に規定する国際的な特殊標章(第3-4図)及び身分証明書(以下「特殊標章等」という。)を交付し、又は使用させることができることとされている。これは、国民保護措置に従事する職務を行う者等及び使用される場所等を識別させることをねらいとする。この特殊標章等については、国民保護法上、みだりに使用してはならないこととされており、各交付権者においては、それぞれ交付対象者に特殊標章等を交付する際の取扱要領を定め、交付台帳を作成すること等により、特殊標章等の適正使用を担保することが必要となっている。

*7 ジュネーヴ諸条約の追加議定書:1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議(議定書I)第66条3

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消防庁においては、関係省庁間の申合せを踏まえ、消防庁特殊標章交付要綱を作成し、地方公共団体や消防機関に対して、各交付権者が作成することとなっている交付要綱の例を通知するなど、特殊標章等が適正に取り扱われるよう取り組んでいる。また、平素の訓練や啓発などにおいて積極的に活用されることにより、国民の国民保護への理解を深めてもらうための取組を行っている。

(5)地方公共団体職員の研修・普及啓発

地方公共団体は、国民保護措置のうち、警報の通知・伝達、避難の指示、避難住民の誘導や救援など住民の安全を直接確保する重要な措置を実施する責務を有している。これらの措置は関係機関との十分な連携のもとで行う必要があり、職員が制度全般について十分に理解していることが不可欠である。
消防庁消防大学校においては、地方公共団体の一般行政職員、消防職員、消防団員等が危機管理や国民保護に関する専門的な知識を修得するためのカリキュラムとして国民保護コースを設けている。都道府県の自治研修所や消防学校においても、国民保護に関するカリキュラムの創設等に積極的に取り組むことが望まれる。
また、国民保護措置を円滑に行うためには、自主防災組織をはじめとする住民に対しても、国民保護法の仕組みや国民保護措置の内容、避難方法等について、広く普及啓発を行うことが大切である。
消防庁では、啓発資料等として、これまでに、地方公共団体の担当職員や消防団・自主防災組織のリーダー向けに国民保護の基本的な仕組み、消防の役割、訓練のあり方等について、わかりやすく示した冊子やDVD等を作成している(第3-5図)。

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(6)訓練

国民保護法では、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長等並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、それぞれの国民の保護に関する計画又は国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、それぞれ又は他の指定行政機関の長等と共同して、国民の保護のための措置についての訓練を行うよう努めなければならないとされている。
また、国民保護計画等を実効性のあるものとするには平素から様々な事態を想定した実践的な訓練を行い、国民保護措置に関する対処能力の向上や関係機関との連携強化を図ることが重要である。
国民保護計画が全都道府県で作成された平成17年度以降、国と地方公共団体が共同で行う国民保護共同訓練及び各地方公共団体が単独で行う単独訓練が実施されている。特に、国民保護共同訓練について、平成21年度では、これまでの爆破テロや化学テロの他、生物剤を使用したテロの発生等を想定し、実動訓練4件、図上訓練10件を実施又は実施予定となっている(平成20年度実績:実動訓練4件、図上訓練14件)。また、これまで、国民保護共同訓練を未実施であった10県での訓練実施も予定されており、これにより、全都道府県で国民保護共同訓練が実施されることとなる(第3-1表)。

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