平成21年版 消防白書

5 テロ対策

(1)危機管理体制の整備

テロ災害発生時において適切な応急対応処置を講じるために、平成13年11月には、政府においてNBCテロ(核(Nuclear)兵器等、生物(Biological)剤及び化学(Chemical)剤を用いたテロ)対策会議幹事会において、NBCテロ対処現地関係機関連携モデルを取りまとめ、消防庁では、都道府県等に対して、このモデルを参考に更に具体的に協議・調整し、NBCテロ対処体制整備の推進を図るよう要請した。また、米国における炭疽菌事件などを踏まえ、平成15年3月に、炭疽菌、天然痘の災害発生に備えるための関係機関の役割分担と連携及び必要な処置を明確化した「生物テロへの対処について」が取りまとめられ、その旨を各都道府県内の関係部局、市町村及び消防機関に対して周知した。
これらの対応とともに、消防庁では、各都道府県との国民保護共同訓練においてNBCテロ災害を想定した訓練を実施し、関係機関の連携の強化を図っている。平成20年度においては、これまでの化学剤を用いたテロを想定しての訓練に加え、生物剤である天然痘、放射性物質を用いたテロ等を想定しての訓練を実施した。平成21年度においても、炭疽菌を用いたテロを想定した訓練を実施し、消防機関、警察機関、自衛隊等の関係機関との連携の強化を図るとともに、様々な想定のもとでの危機管理体制の整備に努めている。

(2)テロ災害に対応するための装備の整備

消防庁では、米国における炭疽菌事件の発生などを踏まえ、テロ災害に対する消防本部の対処能力の強化を緊急に図る必要が生じたため、平成13年度第一次補正予算等により、陽圧式化学防護服、携帯型生物剤検知装置等の資機材を購入し、各都道府県の主な消防本部に対して無償貸与した。
また、大規模特殊災害やテロ災害に対応するため、高度な救助技術に関する知識・技術、各種資格等を兼ね備えた救助隊員で構成される特別高度救助隊・高度救助隊を整備するとともに、平成21年度には、テロ災害に対応するため資機材の整備(P.167参照)を行い、テロ災害に対する対処能力の強化を図っている。

(3)消防機関に対する危機管理教育訓練の充実強化

NBCテロに起因する災害に対処するには、専門的な知識、技術が必要である。このため消防大学校において、NBCテロ災害発生時における適切な消防活動を確保することを目的として、緊急消防援助隊教育科にNBC・特別高度救助コースを設置し、危機管理教育訓練の充実強化を図っている。
また、都道府県の消防学校においても、平成16年度から特殊災害科を実施している。

地方公共団体における総合的な危機管理体制の整備に関する検討について

○ 概要

消防庁では、地方公共団体における危機への対応の実態や総合的な危機管理体制の充実・強化に関する先行的な取組内容等について調査・検討を実施するため、平成18年9月に地方公共団体における総合的な危機管理体制の整備に関する検討会を設置しました。
当検討会では、平成18年度に中間報告書を、平成19年度には都道府県の総合的な危機管理体制の整備についての報告書を発表し、平成20年度は、市町村の総合的な危機管理体制の整備について報告書を取りまとめました。

○ 報告書の構成

・危機発生時の対応と平時からの対応で構成されています。
・危機発生時の対応について、実際に市町村で使用できるよう「危機対応チェックポイント」を作成しました。
・調査結果をもとに、全国の市町村で実施されている事例をコラム形式で紹介しています。

○ 提言の内容

市町村と都道府県とで異なる点として、消防機関(常備消防・消防団)の存在や直接住民に関わる役割などを挙げ、危機発生時に組合消防機関が対策本部に円滑に参加できる体制の整備や消防団の情報収集能力・組織力強化を提言

危機管理の対象となる事案全般に関して全庁的な対応方針等を示す「危機管理指針」についてその策定推進を提言

危機管理担当部署について各市の組織例を示し、危機管理専門幹部の設置を含めた規模実情に応じた組織の整備を提言

○ 危機対応チェックポイント

危機発生後概ね24時間程度の間に市町村が実施すべき事項を列挙し、発生直後に職員が必要な対応の整理をするのに利用できるようにしたもの。
(一部抜粋)
□ 対策本部を設置できる安全な場所を確保したか
□ 避難勧告等の発令についての判断材料は収集したか
□ 孤立集落の有無についての確認をしたか
□ 避難所に増設するトイレを手配したか
□ 救援物資を受け入れる体制(場所・人員)を確立したか
□ 避難所においてプライバシーへ配慮する手段を整理したか
□ 協定締結先の市町村、事業者等と連絡をとったか
□ 報道発表・記者会見の実施時間を周知したか

北朝鮮ミサイル発射事案及び核実験への対応について

世界には依然として地域紛争やテロ発生の危機等が存在し、我が国周辺においても不安定な要因が存在します。地方公共団体においても、これら国際情勢に関する関心は高くなっています。
特に、最近発生した事案としては、北朝鮮によるミサイル発射及び核実験が挙げられます。

〔北朝鮮によるミサイル発射〕

平成21年3月12日、国際海事機関(IMO)から、わが国を含む加盟国に対し、北朝鮮当局から「試験通信衛星」の打上げのための事前通報があり、日本海(秋田県沖)及び太平洋の一部に危険区域を設定した旨の連絡が入りました。政府としては、これを受けて官邸に情報連絡室を設置し、消防庁では、消防庁情報連絡室を設置しました。
同年4月2日には、内閣官房及び防衛省とともに対応要領について、東北6県に対して地元説明会を実施しました。また、3日には、飛翔経路下となっていた岩手県庁及び秋田県庁並びに秋田空港に消防庁職員7名を配置する等、対応の強化に努めるとともに、4日の誤報事案においても迅速に対応しました。
4月5日11時30分頃、北朝鮮から東の方向にミサイル1発が発射され、日本上空を通過しました。消防庁は、地方自治体への情報伝達及び緊急時の対応を目的とした消防庁対策室を設置して情報収集に努めるとともに、都道府県に対し、情報伝達等を実施しました。この際、特に、過去の教訓を踏まえ、都道府県への迅速な情報伝達に努めました。

※ 平成18年7月5日3時30分頃から同日17時20分頃までの間、北朝鮮からテポドン2号(射程約6,000km)及びノドン(射程約1,300km)を含む合計7発の弾道ミサイルが日本海に向けて発射された。この時、政府から都道府県への最初の発射情報の伝達は5日6時30分頃となった。

〔北朝鮮における核実験〕

平成21年5月25日、北朝鮮が核実験を実施したとの情報が、朝鮮中央通信から報道され、我が国においても、気象庁が同日9時55分頃に、通常の波形とは異なる、北朝鮮の核実験によるものである可能性のある地震波を探知しました。
消防庁では、北朝鮮の核実験実施情報入手後、情報収集に努めるとともに、都道府県に対して計17回の情報提供を実施しました。

〔北朝鮮による弾道ミサイル発射〕

平成21年7月4日8時頃から同日17時30分頃までの間に、北朝鮮から北朝鮮沿岸に近い日本海に向けて合計7発の弾道ミサイルが発射されました。消防庁では、直ちに関係者を参集させ、情報収集に努めるとともに、都道府県に対して2回の情報提供を実施しました。

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