平成21年版 消防白書

2 新型インフルエンザ(H1N1型)の発生と対応

平成21年4月、アメリカ合衆国及びメキシコにおいて、豚を由来とするインフルエンザ(H1N1型)のヒトからヒトへの感染が確認された。動物のインフルエンザがヒトに感染し、流行が広がっていること等から、WHO(世界保健機関)は4月27日から緊急委員会を開催し、新型インフルエンザの発生段階をフェーズ4に引き上げる宣言を行った。これを受けて、翌28日に、厚生労働省は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)に基づく新型インフルエンザ等感染症の発生を宣言した。これによって、各省庁は新型インフルエンザ対策行動計画に基づいた対応を行う体制に移行することとなり、内閣総理大臣を本部長とする新型インフルエンザ対策本部が設置された。
同日の新型インフルエンザ対策本部会合において、政府は基本的対処方針を決定し、新型インフルエンザの発生が国家の危機管理上重大な課題であるとの認識のもと、相談窓口の設置等情報提供体制の充実、水際対策の徹底、パンデミックワクチンの製造着手及び国民への注意喚起を行うこととした。
消防庁においては直ちに消防庁長官を本部長とする消防庁新型インフルエンザ緊急対策本部を設置し、各消防機関に対し、都道府県衛生主管部局等との連携を強化すること、新型インフルエンザ患者を救急搬送する可能性があることを想定し感染防止対策を徹底することを要請した。
同月30日には、WHOは新型インフルエンザのパンデミック警戒レベルをフェーズ4からフェーズ5に引き上げた。このため、5月1日、政府として基本方針を改定し、感染の疑いのある者に対する適切な医療の提供、国内で発生した場合における積極的疫学調査や感染拡大防止措置を適切に実施する方針を示した。
5月9日、成田空港において国外の感染地域から渡航した数名が新型インフルエンザに感染していたことが判明し、さらに同月16日には兵庫県・大阪府で感染者が発見され、その後、日本各地において感染が広がっていった。新型インフルエンザ対策行動計画に基づく発生段階は、第一段階(海外発生期)から第二段階(国内発生早期)へと移行した。同日、政府は新型インフルエンザに関する確認事項を定め、発生している新型インフルエンザの感染者の多くが軽症のまま回復しているものの、基礎疾患のある者を中心に重症化の傾向があることを示したほか、ウイルスの情報に関する正確な情報提供や、国内サーベイランスの強化、新型インフルエンザに対応する医療体制の整備等の対策を示した。また、感染者の発生した地域における積極的疫学調査や集会自粛要請、学校・保育施設の臨時休業が要請された。
各国の対応にもかかわらず、新型インフルエンザの感染は更に拡大し、WHOは6月12日、パンデミック警戒レベルを最高のフェーズ6に引き上げる宣言を行った。フェーズ6への引き上げを受けて、内閣官房長官は関係機関に対し、引き続き基本的対処方針に基づく弾力的な対策の実施と、感染拡大防止、医療体制の充実強化に努めることを指示した。
新型インフルエンザ患者発生数は、5月の発生から月を重ねるにつれ、増加傾向にある。
今回発生した新型インフルエンザについては、弱毒性であったことから、救急車を使わずに医療機関を受診した者も多かったとされている。しかし、集団感染が発生している地域では、救急要請のあった全事案に感染防御資器材を使用して対応した消防本部もあり、改めて感染防止対策を徹底することが重要である。加えて、新型インフルエンザは遺伝子変異により毒性が強くなる可能性もあるとされている。また、新たにH5N1型の新型インフルエンザが流行することも懸念される。これらの強毒性の新型インフルエンザがまん延する状況になった際には、救急要請が増大するだけでなく、医療機関の対応能力を超えてしまう事態が想定されることから、対処方法を更に強化することが必要である。
また、消防庁が平成20年12月に発出した「消防機関における新型インフルエンザ対策のための業務継続計画ガイドライン」について、平成21年8月に「新型インフルエンザ対応中央省庁業務継続計画ガイドライン」が策定されたことを受け、同ガイドラインとの整合性をとるために改定を行うこととしている。
消防庁では今回の事態における課題等について、平成21年度の「消防機関における新型インフルエンザ対策検討会」において議論を行い、消防機関における業務継続のあり方を検討するほか、H1N1型新型インフルエンザの感染拡大や強毒化に対し万全の体制を整えるため、資器材の配備や消防機関と衛生部局等の連携体制の強化などの対策を推進していくこととしている。

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