令和3年版 消防白書

5.国民保護事案への対応力の強化

(1)国民保護共同訓練

国民保護計画等を実効性のあるものとするためには、平素から様々な事態を想定した実践的な訓練を行い、国民保護措置に関する対処能力の向上や関係機関との連携強化を図ることが重要である。
このため、消防庁では、内閣官房等の関係機関と連携し、国と地方公共団体が共同で行う国民保護共同訓練の実施を促進するとともに、訓練を通じて国民保護法等に基づく対応を確認し、その実効性の向上に努めている。
令和3年度の国民保護共同訓練は、31都府県が実動訓練及び図上訓練を実施予定であり、各種テロ事案等を想定した訓練を実施し、様々な事態への対処能力の向上・関係機関との連携の強化を図ることとしている。今後も新たな要素を加味するなどしながら、訓練の充実強化に努めていく。

(2)地方公共団体職員の研修・普及啓発

地方公共団体は、国民保護措置のうち、警報の通知・伝達、避難の指示、避難住民の誘導や救援など住民の安全を直接確保する重要な措置を実施する責務を有している。これらの措置は関係機関との密接な連携の下で行う必要があり、職員には、制度全般を十分理解していることが求められる。
このため、職員に対する適切な研修等が重要であり、消防大学校においては、地方公共団体の一般行政職員や消防職員が危機管理や国民保護に関する専門的な知識を修得するためのカリキュラムとして危機管理・国民保護コースを設けている。また、消防庁においては、地方公共団体の防災・危機管理担当職員を対象とした防災・危機管理・Jアラート研修会を開催し、参加者が国民保護を含めた防災・危機管理やJアラートの基礎知識等を速やかに習得できるよう取り組んでいる。都道府県の自治研修所や消防学校においても、国民保護に関するカリキュラムの創設等に積極的に取り組むことが望まれる。
また、国民保護措置を円滑に行うためには、消防団や自主防災組織をはじめとして、住民に対しても国民保護法の仕組みや国民保護措置の内容、避難方法等について、広く普及啓発し、理解を深めていただくことが大切である。
このため、消防庁では、啓発資料等として、これまでに、地方公共団体の担当職員や消防団・自主防災組織のリーダー向けに国民保護の基本的な仕組み、消防の役割、訓練の在り方等について、分かりやすく示した冊子等を作成し、地方公共団体が行う普及啓発活動に活用できるようにしている。

(3)地方公共団体における体制整備

都道府県知事及び市町村長は、国民保護計画で定めるところにより、それぞれの区域に係る国民保護措置を的確かつ迅速に実施するために、夜間・休日等を問わずに起きる事案に対応可能な体制を備えた組織を整備することが求められる。一方、地震等の自然災害や新たな感染症など、住民の安心・安全を脅かす様々な危機管理事案に対しても、同様の対応が強く求められている。
このため消防庁では、「地方公共団体の危機管理に関する懇談会」を開催し、危機管理について知識・経験を有する有識者からの意見・助言を得て、施策に反映するように努めている。このほか、地方財政措置として、令和3年度も引き続き、国民保護対策に要する経費を交付税算定上、基準財政需要額に計上するなど、地方公共団体の体制強化の支援に当たっている。

(4)特殊標章等

指定行政機関の長、地方公共団体の長等は、武力攻撃事態等においては、指定行政機関や地方公共団体の職員で国民保護措置に係る職務を行う者又は国民保護措置の実施に必要な援助について協力をする者に対し、ジュネーヴ諸条約の追加議定書*4に規定する国際的な特殊標章及び身分証明書(以下「特殊標章等」という。)を交付し、又は使用させることができる。これは、国民保護措置に係る職務を行う者等及び国民保護措置に係る職務のために使用される場所等を識別させるためのものである。この特殊標章等については、国民保護法上、みだりに使用してはならないこととされており、各交付権者においては、それぞれ交付対象者に特殊標章等を交付する際の要綱を定め、交付台帳を作成すること等により、特殊標章等の適正使用を担保することが必要である(第3-1-4図)。
消防庁においては、平成17年10月に消防庁特殊標章交付要綱を作成するとともに、同月、地方公共団体や消防機関に対して、各交付権者が作成することとなっている交付要綱の例を通知したほか、定期的に特殊標章等の作成状況の調査を行い、特殊標章等が適正に取り扱われるよう取り組んでいる。

第3-1-4図 特殊標章

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第3-1-4図 特殊標章

*4 ジュネーヴ諸条約の追加議定書:1949年(昭和24年)8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書I)第66条3

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