令和3年版 消防白書

2.新型コロナウイルス感染症対策に係る消防機関等の取組

(1)消防庁の体制

消防庁では、令和2年1月26日、救急企画室長を長とする消防庁災害対策室を設置し、30日には、総務省対策本部の設置を踏まえ、消防庁においても、消防庁長官を本部長とする「消防庁新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置した。
3月26日には、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)に基づく政府対策本部の設置を受け、消防庁長官を本部長とする「新型コロナウイルス感染症消防庁対策本部」(以下、本特集において「消防庁対策本部」という。)を設置した。
同月28日、政府における基本的対処方針の決定及び総務省における総務省対処方針の決定を踏まえ、消防庁においても消防庁対策本部を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の消防庁対処方針」(以下、本特集において「消防庁対処方針」という。)を決定した。消防庁対処方針では、新型コロナウイルス感染症対策を更に進めていくため、消防庁職員への注意喚起や、地方公共団体・消防機関等の関係機関との連携の推進等について、消防庁として迅速かつ適切に行うこととした。
消防庁は、その後、累次にわたる基本的対処方針及び総務省対処方針の改正及び変更を受け、令和2年4月7日、5月25日、令和3年1月7日、2月12日及び9月30日に消防庁対処方針を改正した。

(2)具体的な取組

消防庁においては、新型コロナウイルス感染症対策について累次の通知等を発出し、消防機関の円滑な活動の推進や、国民の安全確保に努めた。

ア 救急業務における対応

救急業務については、救急隊員の行う感染防止対策など具体的手順の徹底や、保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築、救急搬送困難事案の抑制に向けた連携協力等を消防機関に要請した(特集2-1表)。

特集2-1表 新型コロナウイルス感染症に係る都道府県消防防災主管部(局)及び全国の消防本部への対応状況(救急関係)について

特集2-1表 新型コロナウイルス感染症に係る都道府県消防防災主管部(局)及び全国の消防本部への対応状況(救急関係)について

(ア)救急隊員への注意喚起等
救急分野における新型コロナウイルスへの対応のため、「新型コロナウイルス感染症に係る消防機関における対応について」(令和2年2月4日付け通知。以下、本特集において「2月4日通知」という。)では、救急業務の実施に当たって、保健所等との連絡体制を確保した上で、①都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務であること、②全ての傷病者に対して、標準感染予防策を徹底すること、③救急要請時又は現場到着時に、新型コロナウイルス感染症の患者又は感染が疑われる患者であることが判明した場合は、直ちに保健所等に連絡し、対応を引き継ぐこと等を消防機関に周知した。
救急現場における感染防止対策については、消防庁から消防機関に対して、累次の通知等を発出し、保健所等関係機関との連携や、マスク・手袋などの感染防止資器材の正しい装着方法、救急隊員の健康管理及び救急車の消毒の徹底といった、具体的な対応手順の周知・徹底を図ってきた。令和2年度には、救急隊員等の感染症対策強化などのため、「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.1.0)」の改訂を検討し、「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.2.0)」として取りまとめ、「「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.2.0)」の発出及び救急隊の感染防止対策の推進について」(令和2年12月25日付け通知)を発出し、全国の消防本部に周知した。さらに、令和3年度には、オンライン方式により「救急隊の感染防止対策研修会」を開催するとともに、各消防本部における研修等で活用できるよう、本研修会の動画を消防庁ホームページで公開した。
このほか、新型コロナウイルス感染症患者等(疑われる場合を含む。)の移送・搬送に従事した救急隊員が、濃厚接触者として保健所からPCR検査の指示を受けていない場合であっても、消防本部としてPCR検査が必要と考える場合は適切に検査が受けられるよう、大学病院に相談できる取組体制を構築し、「大学病院に対する救急隊員へのPCR検査実施の依頼等について(周知)」(令和2年9月15日付け事務連絡)により周知した。

(イ)感染防止資器材の確保・提供等
こうした中、感染防止資器材の確保に支障が生ずる消防機関も発生したため、消防庁は、令和2年3月10日に感染防止資器材の卸売会社等に対して、医療機関等と同様に消防機関に対する安定供給に努めるよう要請を行った。また、救急搬送に当たって必要となる感染防止資器材について不足が生じ、救急活動に支障が生じることのないよう、令和元年度一般会計予備費や、令和2年度の3次にわたる補正予算を活用し、緊急的な措置として、消防庁がN95マスクや感染防止衣などの感染防止資器材を調達して必要な本部に提供する形で支援することで、救急隊員の感染防止対策の徹底を図っている。

(ウ)保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築
2月4日通知においては、新型コロナウイルス感染症について、都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務とされているが、地域における搬送体制の確保の観点から、消防機関としても、あらかじめ保健所等との密な情報共有、連絡体制の構築に協力するよう要請した。特に、厚生労働省から消防庁に対して、保健所等が行う新型コロナウイルス感染症の患者(疑似症患者を含む。)の移送について消防機関に対する協力の要請があったことから、保健所等と事前に十分な協議を行った上で移送に協力するよう、消防機関に要請した。また、「新型コロナウイルス感染症に係る消防機関と保健所等との連絡体制の構築等について」(令和2年2月28日付け事務連絡)を発出し、消防機関と保健所等との連絡体制の構築等に関して、先行取組事例等を取りまとめ、周知した。
その後、厚生労働省より、「新型コロナウイルス感染症患者等の移送及び搬送について」(令和2年5月27日付け事務連絡)が発出され、都道府県知事、保健所設置市長又は特別区長が当該患者等の移送を円滑に進められるよう、都道府県知事等から消防機関に対して移送協力の要請をする場合の留意事項等が示されたことに伴い、消防庁から、「新型コロナウイルス感染症患者等の移送等への対応について(依頼)」(令和2年5月27日付け事務連絡)を発出し、都道府県消防防災主管部(局)や消防機関に対して、今後、都道府県知事等から、地域の実情を踏まえて必要に応じ、新型コロナウイルス感染症患者等の移送に係る協議がなされることも想定し、適切な対応に努めるよう依頼した。
また、令和3年8月17日に発生した自宅療養中の新型コロナウイルス感染妊婦の入院先が見つからず、自宅で早産となり、新生児が死亡するという事案を受け、厚生労働省より「新型コロナウイルス感染症に係る周産期医療の着実な整備について」(令和3年8月23日付け通知)が発出され、総務省より、「新型コロナウイルス感染症に係る周産期医療の着実な整備及び医療提供体制の確保への対応について」(令和3年8月23日付け通知)が発出されたことなどを踏まえて、消防庁から「新型コロナウイルス感染症に係る周産期医療提供体制の確保への対応について」(令和3年8月23日付け通知)を発出した。本通知において、都道府県消防防災主管部(局)や消防機関に対し、医療機関リスト及び当該リストに掲載された医療機関における空き病床状況を活用し、新型コロナウイルスに感染した妊産婦に係る救急要請時に、産科的緊急処置が必要であると判断した場合には、保健所等への連絡も併行しながら、各消防機関においても即時に、上記医療機関リスト等の情報を活用して受入れ医療機関の選定を開始することなどのほか、周産期医療協議会等への消防機関の積極的な参画を要請した。その後、消防庁においては、当該通知への対応状況について全国52消防本部(東京消防庁、指定都市消防本部及び代表消防機関)に対し調査を実施し、対応を促すとともに、調査結果を公表した。
さらに、厚生労働省より、「入院外患者に一時的に酸素投与等の対応を行う施設(入院待機施設)の整備について」(令和3年8月25日付け事務連絡)が発出され、入院待機施設の設置・運営に係る留意点等が示されたことに伴い、消防庁から「入院外患者に一時的に酸素投与等の対応を行う施設(入院待機施設)の整備への対応について(依頼)」(令和3年8月26日付け事務連絡)を発出し、今後、都道府県の衛生主管部(局)等との間で入院待機施設に係る移送等について調整がなされる際には、適切に対応するよう依頼した。
特に、新型コロナウイルス感染症患者が急激に増加した時期には、各地の消防機関において、救急隊の増隊や入院待機施設への運営協力も行うなど、国民の生命を守るために尽力した。

(エ)救急搬送困難事案への対応
令和2年3月以降、発熱や呼吸苦などの新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈する傷病者への対応に関して、消防機関が受入れ医療機関の決定に苦慮する事案が報告された。
これを受けて、消防庁では、「新型コロナウイルス感染症に伴う救急搬送困難事案に係る状況調査について(依頼)」(令和2年4月23日付け通知)を発出し、全国52消防本部を調査対象として、救急搬送困難事案の件数を把握している。これを踏まえ、消防庁において救急搬送困難事案の状況を厚生労働省と共有するとともに、都道府県消防防災主管部(局)に対し、衛生主管部(局)等との情報共有等や地域における搬送受入れ体制の整備・改善などの検討等に活用するよう依頼している。
こうした中、令和3年3月には、厚生労働省から「今後の感染拡大に備えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(令和3年3月24日付け事務連絡)が発出され、各地で過去最大の感染拡大を経験することで明らかになった様々な課題を点検し、次の感染拡大に向けて医療提供体制を更に強化するよう、体制整備の考え方や具体的な内容が整理された。また、患者対応への一連の流れの中で目詰まりが起こっていないか、コロナ対策と一般医療との両立が図られているかどうかの「チェックポイント」として、主要項目の中で「救急搬送困難事案件数(全搬送患者)」が、参考項目の中で「救急搬送困難事案件数(コロナ疑い以外)」が掲げられた。これを踏まえ、消防庁でも「今後の感染拡大に備えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備への対応について」(令和3年3月24日付け事務連絡)を発出し、上記対応について、都道府県の衛生主管部(局)等の関係者との間で適切な調整・連携を図り、必要な対応に努めるとともに、改めて、救急搬送困難事案に係る状況調査の結果を活用するよう依頼した。
当該調査を通じて把握した救急搬送困難事案の発生件数をコロナ前である令和元年度の同時期との比較で見ると、令和2年4月、8月及び令和3年1月と計3回のピーク(それぞれ約1.9倍、約1.8倍及び約2.3倍)があった。令和3年度に入ってからは、5月第2週に4回目のピーク(約2.1倍)、8月第4週に5回目のピーク(約3.7倍)を迎えたのち、対前週比では概ね減少傾向となり、10月第5週では約1.6倍となっている。(特集2-2図)。
救急搬送困難事案の調査結果は、消防庁ホームページ上の特設サイト「新型コロナウイルス感染症対策関連」に最新の情報を掲載している。

特集2-2図 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(各週比較)

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特集2-2図 各消防本部からの救急搬送困難事案に係る状況調査の結果(各週比較)

※1 本調査における「救急搬送困難事案」とは、救急隊による「医療機関への受入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」の事案として、各消防本部から総務省消防庁あて報告のあったもの。
※2 調査対象本部=政令市消防本部・東京消防庁及び各都道府県の代表消防本部 計52本部
※3 コロナ疑い事案=新型コロナウイルス感染症疑いの症状(体温37度以上の発熱、呼吸困難等)を認めた傷病者に係る事案
※4 医療機関の受け入れ体制確保に向け、厚生労働省及び都道府県等と状況を共有。
※5 この数値は速報値である。
※6 本調査には保健所等により医療機関への受入れ照会が行われたものは含まれない。

イ 消防機関の業務継続等

(ア)消防本部の業務継続等
消防機関の任務は、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、災害を防除し、災害による被害を軽減することであり、新型コロナウイルス感染症発生時においても、安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することが求められる。消防機関は、特に救急業務を担うことから、業務の重要性と感染防止策の必要性を十分認識するとともに、救急搬送のみならず、消火をはじめとした必要な業務を継続できるようにする必要がある。
消防庁では、上述のとおり、基本的対処方針、総務省対処方針及び消防庁対処方針の決定に併せ、各消防機関に対し、消防職員の健康管理の徹底や、必要な業務を継続できる体制の確保を要請するとともに、「消防機関における新型インフルエンザ対策のための業務継続計画ガイドライン(改訂版)」を含む「消防機関における新型インフルエンザ対策検討会報告書」(平成22年2月)を対応の参考として送付した。
また、政府対策本部の内容等政府の対応状況や、各省庁から提供される職員の感染防止に資する情報を、累次にわたり事務連絡により各消防機関に対し周知した。
各消防機関においても、職員の感染防止のために様々な取組は行われていたが、職員の感染事例が断続的に発生していたため、消防庁では、職員の感染事例が発生した消防機関からのヒアリング結果を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症の再度の感染拡大に備えた消防本部の業務継続等のための当面の留意事項について」(令和2年6月30日付け通知。以下、本特集において「6月30日通知」という。)を発出し、消防本部において喫緊に取り組むべき当面の留意事項として、感染防止資器材の確保、消防本部内での感染防止対策の徹底、消防本部内での感染者の発生等により職員数が減少した場合への備え、テレワーク勤務や早出遅出勤務の推進について要請した。
このほか、新型コロナウイルス感染症対策に従事した国家公務員への防疫等作業手当の特例について、人事院規則が改正されたことを受け、「新型コロナウイルス感染症により生じた事態に対処するための防疫等作業手当の特例について(人事院規則9-129の一部改正)(情報提供)」(令和2年3月19日付け事務連絡)に続き、「新型コロナウイルス感染症により生じた事態に対処するための防疫等作業手当の特例の運用及び業務体制の確保について(情報提供)」(令和2年4月23日付け事務連絡)を発出し、人事院規則の改正内容を周知するとともに、適切な対応を依頼した。加えて、地方創生臨時交付金の活用事業例にその使途として、「感染症対応に従事した救急隊員等への防疫等作業手当等」が明記されたことを受け、6月30日通知において、その周知を含めあらためて適切な対応を各消防機関に要請した。

(イ)救急隊員等へのワクチン接種
全国各地で新型コロナウイルス感染症予防接種が進められる中で、厚生労働省から「医療従事者等への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種を行う体制の構築について」(令和3年1月8日付け厚生労働省通知。以下「1月8日付け厚生労働省通知」という。)が各都道府県に発出され、医療従事者等への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の基本的な考え方等が示され、医療従事者等に新型コロナウイルス感染症患者を搬送する救急隊員等が含まれる見込みであると示された。これを受けて、消防庁において、厚生労働省と協議の上、「医療従事者等の範囲」に示される「新型コロナウイルス感染症患者を搬送する救急隊員等」の具体的範囲を①救急隊員②救急隊員と連携して出動する警防要員③都道府県航空消防隊員④消防非常備町村の役場の職員⑤消防団員(主として消防非常備町村や消防常備市町村の離島区域の消防団員を想定)と整理し、「医療従事者等への新型コロナウイルス感染症に係る予防接種における接種対象者について(周知)」(令和3年1月15日付け事務連絡)により周知した。令和3年6月30日時点の全国52消防本部に対する調査によると、対象者の約9割が2回目の接種を完了している。

(ウ)消防団活動における感染症対策
消防団員は、主に災害時の避難誘導や避難所運営支援の際など、新型コロナウイルス感染症患者と接することが想定された。
このため、令和3年度には、市町村が消防団員の新型コロナウイルス感染症対策として必要となる資器材の整備を促進するため、国庫補助制度を創設した(「消防団設備整備費補助金」(消防団新型コロナウイルス感染症対策事業))。本補助金は、市町村の事業費全体の3分の1を補助するものであり、また、残りの地方負担分に対しても特別交付税措置(措置率0.8)を講じている。
このほか、消防団活動において感染者や濃厚接触者が発生していることを踏まえ、「消防団活動における新型コロナウイルス感染症の感染防止対策の徹底について」(令和2年12月1日付け通知)を発出し、感染防止対策を徹底するよう要請した。また、消防団員が感染症の感染防止に留意して活動できるよう、予防方法や感染防止策など感染症に関する基礎的な知識や、消防団員の新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた各市町村等の取組例などを消防庁ホームページに掲載するとともに、通知を発出し周知を図るなどの対応を行っている。

消防団設備整備費補助金の補助対象資器材の例
消防団設備整備費補助金の補助対象資器材の例

ウ ワクチン接種業務等

(ア)救急救命士によるワクチン接種等の実施
国民の生命・健康を守るためには、ワクチン接種を迅速に進める必要があるため、厚生労働省において、法的、制度的な検討を行い、「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推進するための各医療関係職種の専門性を踏まえた対応の在り方等について」(令和3年6月4日付け厚生労働省通知。以下「6月4日付け厚生労働省通知」という。)において、臨床検査技師及び救急救命士等の各医療関係職種の専門性を踏まえた効果的・効率的な役割分担の在り方等が示された。この中では、当面、救急救命士に期待される役割として、「ワクチン接種のための筋肉内注射」及び「接種後の状態観察」が考えられるとされた。救急救命士は、ワクチン接種のための筋肉内注射の手技に関する一定の技術的基盤を有していると考えられることを踏まえると、違法性阻却の可否は個別具体的に判断されるものであるが、少なくとも以下の条件の下でワクチン接種のための筋肉内注射を救急救命士が行うことは、公衆衛生上の観点からやむを得ないものとして、医師法第17条との関係では違法性が阻却され得るものと考えられることが示された。違法性阻却のための条件として、①必要な医師・看護師等の確保ができないために、臨床検査技師や救急救命士による協力が不可欠であること、②協力に応じる臨床検査技師・救急救命士がワクチン接種のための筋肉内注射について必要な研修を受けていること、③臨床検査技師・救急救命士によるワクチン接種について、被接種者の同意を得ること、という3つの条件が掲げられている。消防本部に所属している救急救命士が相当数いることから、各都道府県や消防本部に対し、適時の情報提供や、必要な助言を行った。具体的には、消防庁からも「厚生労働省「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を推進するための各医療関係職種の専門性を踏まえた対応の在り方等について」への対応について(依頼)」(令和3年6月4日付け通知)を発出した。当該通知において、予防接種の実施主体である自治体の長から、効果的かつ効率的なワクチン接種体制の構築に向けて、ワクチン接種のための筋肉内注射や接種後の状態観察に関して、消防機関に所属する救急救命士の活用に係る協力要請があった場合には、救急救命士による本来業務に支障を生じさせない範囲で、できる限りの協力を行うこと、また、現場の救急活動に従事していない救急救命士であって、今後、当該救急救命士をワクチン接種業務に従事させることが見込まれる場合には、厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き(3版)」を参考に、当該救急救命士をワクチン接種対象とするため、都道府県及び市町村のワクチン接種主管部(局)等の関係者との間で、適切な対応を行うよう依頼した。
さらに、「消防本部の救急救命士のワクチン接種業務に向けた研修受講等の実績調査について」(令和3年7月7日付け通知)において、消防機関に所属する救急救命士があらかじめ座学研修を受講し、ワクチン接種業務に係る十分な知見を習得することは、危機管理上の観点から有益であると考えられるため、消防機関に所属する救急救命士の座学研修の受講について、特段の配慮を依頼した。
また、「消防職員である救急救命士がワクチン接種業務に従事する場合の任命等及び手当について」(令和3年6月11日付け通知)を発出し消防職員である救急救命士がワクチン接種業務に従事する場合は、特殊勤務手当を支給することが想定されること等を助言した。
これらの一連の概要については、特集2-2表のとおりである。

特集2-2表 厚生労働省におけるこれまでの検討経緯等

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特集2-2表 厚生労働省におけるこれまでの検討経緯等

(イ)ワクチン接種に伴うアナフィラキシー発症時の対応
先行接種対象者である医療従事者等への接種が進むにつれて、ワクチンの接種に伴うアナフィラキシーの副反応疑いが報告されていることを踏まえ、厚生労働省より、「新型コロナワクチンの接種に伴いアナフィラキシーを発症した者の搬送体制の確保について」(令和3年3月31日付け通知)が発出された。これを踏まえ、消防庁でも「新型コロナワクチンの接種に伴いアナフィラキシーを発症した者の搬送体制の確保への対応について(依頼)」(令和3年3月31日付け通知)を発出し、消防機関に対し、市町村又は都道府県衛生主管部(局)等の関係者から協力要請があった場合には、①予めの情報共有や、搬送が必要になった場合に備えた動線や引継ぎ方法等の協議、②搬送先医療機関の選定・調整等について連携して必要な対応を行うよう依頼した。

エ 住民等への情報発信

(ア)住民への適時・適切な情報発信の要請
消防庁としては、新型コロナウイルス感染症対策に関する情報提供について、「新型コロナウイルス感染症対策に関する住民への独自の情報発信について」(令和2年3月31日付け通知)を発出し、様々な情報伝達手段を活用した情報発信を行うよう要請した。さらに、国内の感染状況が予断を許さない状況であることを踏まえて、「新型コロナウイルス感染症対策に関する住民への情報発信について」(令和3年4月26日付け事務連絡)を発出し、日中も含めた不要不急の外出・移動の自粛等、住民への情報発信を適時・適切に行うとともに、市町村防災行政無線、登録制メール、SNS、広報車による巡回等、様々な情報伝達手段を活用して住民への情報発信の取組を継続するよう要請した。

(イ)繁華街における見回り活動等の実施について
「営業時間短縮要請等に係る繁華街における見回り活動等の実施について」(令和2年12月18日付け内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室事務連絡)が発出され、各都道府県宛てに街中の見回りや声がけなど営業時間短縮要請等の実効性を担保するための取組(以下、本特集において「見回り活動等」という。)の実施が要請され、その実施に当たっては警察や消防等関係機関が緊密に連携して行うこととされたこと等を踏まえ、消防庁では「営業時間短縮要請等に係る繁華街における見回り活動等の実施について」(令和2年12月18日付け事務連絡)及び「緊急事態宣言下における繁華街での見回り活動等の実施について」(令和3年1月7日付け事務連絡)を発出し、見回り活動等が円滑に行われるよう消防本部等へ要請した。
また、「繁華街での見回り活動等の徹底について」(令和3年1月13日付け内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室事務連絡)が発出され、各都道府県宛てに20時以降の夜間のみならず、日中においても警察、消防その他の関連部局が一体となり見回り活動等を徹底して実施するよう要請されたことを踏まえ、消防庁では「繁華街での見回り活動等の徹底について」(令和3年1月13日付け事務連絡)を発出し、市町村防災行政無線、登録制メール、SNS、広報車による巡回等の様々な情報伝達手段、消防による管内警戒パトロールや火災予防普及啓発活動等の様々な機会を活用し、営業時間短縮要請等の徹底はもとより、広く住民に対して、日中も含めた不要不急の外出自粛の徹底等について積極的な広報啓発を実施するよう消防本部等へ要請した。

オ 災害対応に係る感染症対策

(ア)災害時の避難所における新型コロナウイルス感染症対策
災害が発生し避難所を開設した場合、多数の避難者が集まり、新型コロナウイルス感染症等の感染が発生する懸念があることから、通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図るほか、避難所の衛生環境を整える必要がある。
消防庁においては、令和2年4月以降、内閣府、厚生労働省等と連携し、多くの避難所の確保の観点から、親戚や知人の家等への避難の検討やホテル・旅館の活用を促すほか、避難所の衛生環境の整備の観点から、避難者の健康状態の確認等に関する留意事項や発熱者等の滞在スペース確保を含む全体レイアウト例を示す等適切な取組を要請するため、通知等を発出した(特集2-3表)。

特集2-3表 避難所における新型コロナウイルス感染症対策に関する主な通知等

特集2-3表 避難所における新型コロナウイルス感染症対策に関する主な通知等

(イ)自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止
新型コロナウイルス感染症の流行が継続していることから、救急以外の消防活動においても、万全な感染防止対策により、消防隊員の感染防止に努めることが重要である。
令和2年は河川の氾濫及び土砂災害による大規模自然災害が多発したため、自然災害発生時の救助活動等及び大規模災害発生時の都道府県を越えた広域応援を行う緊急消防援助隊活動時における感染防止対策について通知(特集2-4表)を発出し、各都道府県消防防災主管部(局)長及び全国の消防本部に対して周知した。

特集2-4表 自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止 関連通知

特集2-4表 自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止 関連通知

(ウ)緊急消防援助隊の訓練における取組
令和3年度に静岡県において実施予定であった第6回全国合同訓練は、新型コロナウイルス感染症拡大状況を踏まえて令和4年度に延期とした。
また、令和3年度の地域ブロック合同訓練は訓練の趣旨、目的、必要性及び新型コロナウイルス感染症の感染リスクを考慮したうえで、地域の感染状況に応じて感染リスクの高い訓練を行わないなど、感染防止対策を徹底した訓練計画になるよう通知し、各ブロックにおいては、宿営を伴う実動訓練を中止し、訓練実施の次年度延期や感染症対策を徹底した図上訓練の実施、または感染症対策を徹底したうえで小規模な実動訓練を実施するなど、ブロックの実情に応じた訓練計画に基づき実施した。

カ 危険物保安・火災予防等の消防法令に関する措置

(ア)消毒用アルコールの増産等への対応
新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、手指の消毒等のため、消防法に定める危険物第4類のアルコール類に該当する消毒用アルコールを使用する機会が増えた。このような状況を踏まえ、アルコールの取扱いにおける火災予防上の一般的な注意事項についてリーフレット(特集2-3図)を作成するなど広報啓発を行った。また、消毒用アルコールの増産等が喫緊の課題であることを踏まえ、各都道府県には、消防法令の運用については、安全を確保しつつ事務手続き等の迅速かつ弾力的な運用に配慮するよう依頼し、消防研究センターにおけるアルコールの火災危険性等に関する実験結果を踏まえ、運用上の注意事項や運用事例についての情報提供も行った。
なお、アルコールから発生する可燃性蒸気の流れについては、可視化した動画をホームページで公開している。

特集2-3図 広報啓発用リーフレット

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特集2-3図 広報啓発用リーフレット

(イ)飛沫防止用のシートに係る火災予防上の留意事項
新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策の観点から、レジカウンター等に飛沫防止用のシート(以下、本特集において「シート」という。)を設置する例が増えた。このような状況の下、大阪府内の商業施設において、ライターを購入した顧客が、試しにライターを点火したところ、レジカウンターに設置されていたシートに着火する火災が発生した。当該火災を受け、シートに係る火災予防上の留意事項として、①火気使用設備・器具、白熱電球等の熱源となるものから距離をとること、②スプリンクラー設備の散水障害が生じない位置に設置するとともに、自動火災報知設備の感知に支障とならないように設置すること、③避難の支障とならないように設置すること、④必要に応じて難燃性又は不燃性のものの使用を検討することを通知した。
また、各業種の感染拡大予防ガイドラインにシートの火災予防上の留意事項を記載することについて、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室及び関係府省庁に対し周知を依頼したほか、消防庁として、シートに係る火災の注意喚起と火災予防上の留意事項の一層の広報周知のため、リーフレットを作成し消防庁ホームページ上で公開している(特集2-4図)
https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/post-7.html)。

特集2-4図 広報啓発用リーフレット

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特集2-4図 広報啓発用リーフレット

(ウ)感染拡大防止に伴う消防法令の運用等
基本的対処方針を踏まえ、人と人との距離を確保し接触の機会を低減すること等の対策が講じられたことに伴い、消防法令に定める講習の受講や点検報告など各種義務の履行等が難しい場合が見られた。
このため、消防法に基づく危険物取扱者講習又は消防設備士講習の未受講について、免状の返納命令の対象となる違反行為として点数を計上しないことを通知した。その後、これらの講習や危険物取扱者試験及び消防設備士試験については、各都道府県において、各会場の換気や消毒、座席間の距離の確保等の感染症対策が徹底された上で実施されている。消防庁においても、安定した受講機会の確保を図るため、オンラインによる危険物取扱者講習の本格導入を進めるとともに、その他講習についても検討を実施することとしている。
また、消防法令関係手続における押印の省略や、電子メール等による申請等の受付について、令和2年5月に通知したほか、制度的な対応として、同年12月の消防法施行規則や危険物の規制に関する規則等の改正により申請者等の押印を廃止するとともに、各都道府県等に対し、電子メールや電子申請システム等による受付体制の整備について助言を行った。同時に、防火対象物の点検や消防用設備等の点検などの消防法令に定める各種点検について、新型インフルエンザ等その他の事由の影響により、当該期間ごとに点検等を行うことが困難である場合の期間延長に係る規定を定めるため、消防法施行規則を改正した。その後の令和3年1月の緊急事態宣言に際しては、当該規定に基づき、消防法令に定める各種点検の期間を延長する告示を制定している。
こうした取組に加え、消防庁においては、新型コロナウイルス感染症対策やデジタルガバメント実現の観点から、特に申請・届出が多い火災予防分野の手続において、マイナポータル・ぴったりサービスを活用した電子申請等の早期導入を促進するための取組を進めている。

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はじめに
はじめに 昨年は、静岡県熱海市土石流災害や8月11日からの大雨などの自然災害に見舞われ、多くの人的・物的被害が生じました。 また、新型コロナウイルス感染症への対応として、救急隊員の感染防止対策の徹底や、ワクチン接種業務への救急救命士の活用など様々な対応が求められました。 気候変動...
1.令和3年7月静岡県熱海市土石流災害による被害及び消防機関等の対応状況
特集1 最近の大規模自然災害等への対応 1.令和3年7月静岡県熱海市土石流災害による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 6月末から日本付近に停滞した梅雨前線の影響で、西日本から東北地方の広い範囲で大雨となり、各地で河川氾濫、浸水、土砂崩れ等が発生した。 静岡県熱海市では、降り始めから7月...
2.令和3年8月11日からの大雨による被害及び消防機関等の対応状況
2.令和3年8月11日からの大雨による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 ア 気象の状況 8月11日から21日にかけて、日本付近に停滞した前線に暖かく湿った空気が断続的に流れ込んだ影響で前線の活動が活発となり、西日本から東日本の広い範囲にかけて大雨となった。 特に、8月12日から14日は...
3.栃木県足利市林野火災による被害及び消防機関等の対応状況
3.栃木県足利市林野火災による被害及び消防機関等の対応状況 (1)災害の概要 ア 火災の概要 令和3年2月21日15時20分頃、栃木県足利市西宮町地内にある両崖山山頂付近の山林(通称「紫山」)から出火した。管轄の足利市消防本部は同日の15時36分に覚知し消火活動に当たったが、強風注意報が発表された2...