東日本大震災に学ぶ
5.放射能について正しい基礎知識を身につける

福島県では、東京電力の福島第一原子力発電所が地震と津波に襲われ、炉心溶融や水素爆発といった深刻な事故が起きました。
その際に大量の放射性物質が外へ漏れ出しました。

放射性物質は人体に影響を与えるため、私たちはこれから、数十年という単位でこれと向き合っていかなければなりません。
物理学者の寺田寅彦氏の随筆に、「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」という言葉があります。
正当にこわがるために、必要な基礎知識をここで整理しましょう。

放射能とは、物質が持つ、放射線を出す力のことをいいます。
「放射能はこわい」とされるのは、この放射線が、人体の細胞のDNAを傷つけたり、人体にとって有害な活性酸素を発生させたりすることがあるからです。
放射線を出す物質を放射性物質といい、原発事故以降、問題になっているヨウ素131やセシウム137は、この放射性物質の一種です。

人体が放射線にさらされることを被ばくといいます。
被ばくの形態には、体の外側から放射線を浴びる外部被ばくと、空気中の放射性物質を吸い込んだり、放射性物質がついた飲食物を飲み込んだりすることで体の中に取り込み、そこから放出される放射線によって被ばくする内部被ばくがあります。
立入禁止区域では、服や皮膚についた放射性物質が放射線を発し、外部被ばくをもたらす可能性があり、区域内で作業をする人は対策が必要です。それ以外の地域における放射線の量は、外部被ばくの可能性は無視できるレベルまで下がっています。
一方、いったん体の中に取り込まれた放射性物質は、多くは排泄によって体外に排出されますが、一部が甲状腺や胃、腸、肝臓などの内臓にとどまり、放射線を出し続けることがあります。

放射能や放射線の量を表すときに、ベクレルやシーベルトという言葉を耳にしますが、その違いは何でしょうか。
ベクレル(Bq)とは、個々の放射性物質の放射能の強さ、つまり放射線を出す力の強さを表す単位です。
これに対し、シーベルト(Sv)とは、放射線による人体への影響度合いを表す単位です。

放射線被ばくの害から体を守るには、できるだけ外部被ばくや内部被ばくの量を少なくすることが必要です。
これは、被ばく量をゼロにするということではありません。
実は、地球上の空気や食べ物には、さまざまな放射性物質が存在しており、宇宙からとんでくる放射線も含め、原発事故が起こる前から、誰でも年間約2.4ミリシーベルトは放射線被ばくしているのです。

わが国では、自然に存在するもの以外の放射線被ばく量は、1年間に1ミリシーベルトまでと定めています。
今回の事故の結果、国民の外部被ばく、内部被ばくの合計は、年間1ミリシーベルトを上回る可能性があります。

そこで政府は、立入禁止区域以外でも、1年間に20ミリシーベルト以上の被ばくが見込まれる地域には、地域外への避難が望ましいとしています(平成23年4月22日)。 しかしこれは、20ミリシーベルトまでは被ばくをしてもよいということではありません。原子力事故後もそこに住み続ける場合はこれを限度とするという数値であり、国際放射線防護委員会の勧告を参考にして設定しています。
除染や、屋外での活動を制限するといった方法で、被ばく量を年間1ミリシーベルトに近づけることが原則です。

なお、仕事で放射性物質を扱う人の被ばく限度は、電離放射線障害防止規則で定められています。

また、飲食物については、厚生労働省により、食品ごとの規制値が示されています。
これを上回る食品については、出荷制限や摂取制限の措置がとられます。

なお、エックス線撮影やCTスキャンなど、医療用に使われる放射線については、一般にはわずかな量であり、病気予防や早期発見、治療といった効果の方が大きいため、この限度は適用されません。

原発事故で放出された放射性物質は、これからどうなっていくのでしょうか。
放射性物質は、放射線を出しながら、別の物質に変化していき、やがて放射線を出さない物質になります。
放射性物質が、放射線を放出して別の原子核に変化し、半分に減るまでの期間を半減期といい、これは放射性物質の種類によって異なります。

今回、とくに大量に放出されたヨウ素131の半減期は約8日、セシウム137は約30年です。
ですから、内部被ばくを避けるためには、これから数十年にわたり、飲食物にセシウム137が含まれていないか、また、その数値について気をつけていく必要があります。

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