水害対策(監修:片田敏孝 群馬大学教授)
4.洪水の発生可能性に関する意識(崩壊)

 洪水に対する住民の対応行動のありようは、住民個人の災害意識によって規定されるところが大きいと考えられます。 特に、洪水の発生の危険性が潜在的に存在する地域においては、その可能性を住民が正しく認識し、その認識に基づいた、 洪水時における迅速な避難行動や平常時における被害軽減行動といった洪水対応行動が適切に行われることが 洪水被害軽減の観点から重要となります。
しかし、近年の治水事業の進展にともない、かつてに較べれば洪水頻度は着実に低下しており、 住民にとっては地域の洪水に対する潜在的な洪水危険度を認識する機会は少なくなっています。

これによって、住民の意識面では洪水に対する関心の低下や安心感の芽生えも見られており、 それが住民の適切な洪水対応行動を阻害する要因となることが懸念されるところです。

 ここで、1998年(平成10年)8月末北関東・南東北豪雨災害において、その直後に郡山市で実施した意識調査から、 住民の洪水発生可能性に関する意識をみてみます。
これによると、「このような洪水は近々発生すると思っていた」、「このような洪水は将来いずれ発生すると思っていた」 と回答する住民が全体の61.1%を占めており、水害の発生を意識していた住民は比較的多くを占めていることがわかります。
郡山市では1941年(昭和16年)と1986年(昭和61年)に数名の死者を出す洪水被害を被っており、 それが洪水の発生可能性意識に、少なからぬ影響を及ぼしていると考えられます。

 しかしながら、その一方で、郡山市における洪水の発生を「予想すらしていなかった」と 回答している住民の存在も確認することができ、このような回答は、比較的若い住民層や、 1986年(昭和61年)洪水時の被害経験を有していない住民層において、多くみることができます。
 洪水の発生の危険性が潜在的に存在する地域においては、洪水ハザードマップの公表や、 学校等での防災教育、地域コミュニティでの災害伝承などを通じて、住民の正しい洪水危険度認識の醸成を図り、 住民自らの適切な洪水対応行動を促進することによって、洪水発生時の被害最小化を目指していくことが重要な意味を もつものと考えられます。

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