水害対策(監修:片田敏孝 群馬大学教授)
6.住民避難の特性

 洪水時の住民避難は、個人単位の行動というより、世帯内での役割分担の中で行われることが多いと言えます。例えば、世帯主に相当する年代の男性は、高齢者や年少者などの災害弱者(要配慮者)を優先的に避難させ、自らは、浸水に備えた被害軽減行動を取るなど、世帯内において、明確な性・年齢役割分担が存在しています。


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 図は、1998年(平成10年)8月末、北関東・南東北豪雨災害時の郡山市民の避難行動を見たものです。この図は、避難勧告・指示の発令時において、何らかのかたちで避難を行った世帯の中で、優先的に避難を行った優先避難者と、それ以外の非優先避難者との比率を、性別と年齢別に示したものです。これによれば、年少者や高齢者などの災害弱者(要配慮者)は、世帯内において優先的に避難を行っており、その一方、30代から50代の男性、その多くは世帯主と思われますが、他の世帯員を優先避難させた様子が明らかに読みとれます。

また、女性の優先避難者の割合は、男性のそれに比べて、各年代とも高くなっています。これは、年少者や高齢者といった優先避難の世帯員と行動を共にすることに基づくものだと考えられます。

 優先避難した年少者や高齢者と行動を共にした世帯員の性別年齢別の分布を見てみると、まず、優先避難した年少者と行動を共にするのは、25歳から44歳の女性が多くを占めており、母親が子供を連れて優先避難した実態が読みとれます。

 また、優先避難した高齢者と行動を共にするのは、35歳から64歳の女性が多く、高齢の親を連れて優先避難した様子が読みとれます。また、高齢者が年少者と共に優先避難する様子も見られますが、これは孫を連れての優先避難と解釈されます。
 このように、洪水発生時における世帯の避難行動に関しては、明確な性別と年齢別の役割分担が存在しており、年少者や高齢者などの災害弱者(要配慮者)は、優先的に避難を行っていること、女性は、これら優先避難者の付き添い、あるいは引率をする形での優先避難となっている一方で、世帯主に相当する年代の男性は、他の世帯員を優先避難させるなどの様子が確認されます。

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